レジリエント社会創造研究会
本研究会は、「人間・社会・自然とレジリエンス(※)の関係性を重視し、レジリエントな人を育て、レジリエントなコミュニティ・組織の仕組みづくりを行い、自然のレジリエンスを守ることを通して、レジリエント社会を創る方法を協働で検討する」ことを目的として、2018年に発足しました。異なる角度から人間・社会・自然の繋がりとレジリエンスの関係性に焦点を当てた研究会をシリーズで開催し、レジリエント社会を創る方法について協働による知を創出していく予定です。その結果を体系化し、SDGs 実施、および京都大学 UNESCO(ユネスコ)チェアの取り組みに活かすことを目指します。
京都大学大学院総合生存学館(思修館)レジリエント社会創造研究会
※ここでは「レジリエンス」を広義に捉え、「大きな変化や逆境にあってもしなやかに発展し続ける力」を起点として研究会を進めます。
研究会の記録
第9回:「コロナ時代の不確実性にどう向き合うか」
- 日時
- 2021年5月31日(月)16:45〜18:15
- 配信方法
- ZOOM
- スピーカー
- 清水美香(総合生存学館特定准教授、話題提供者)、岡田憲夫(京都大学名誉教授、メインコメンテーター)
- 対話者
- 寶馨(総合生存学館教授)、土田亮(総合生存学館博士課程4年)、および参加者有志全員
- 内容
- 2021年3月に実施した「コロナ禍における不確実性とレジリエンス」アンケート結果から浮かび上がってくるものを踏まえ、公共政策/社会システムデザイン/レジリエンス研究の視点から、コロナ時代の不確実性にどう向き合うかについて示唆を提供します。それを土台に、コロナ後も含めて現代リスク社会の大きな特徴である不確実性にどう向き合うかについてみなさんと共に対話し、コロナ禍における教訓を次のステップに繋げることを目指します。
ショートブリーフ
第9回レジリエント社会創造研究会
「コロナ時代の不確実性にどう向き合うか」
ZOOM於/2021年5月31日開催
記録:庄坪孝敏(京都大学総合生存学館博士課程1年)
土田亮(京都大学総合生存学館博士課程4年)
本研究会では、2021年3月に実施した「コロナ禍における不確実性とレジリエンス」アンケート結果から浮かび上がってくるものを踏まえ、公共政策/社会システムデザイン/レジリエンス研究の視点から、コロナ時代の不確実性にどう向き合うかについて示唆を提供することを目的にしました。参加者との対話を通して、コロナ後も含めて現代リスク社会の大きな特徴である不確実性にどう向き合い、コロナ禍における教訓を次にどのように繋げていくか、それについての考えや意識を共有する機会となりました。
まず、イントロダクションでは話題提供者である清水先生よりレジリエンスの定義のご紹介と多様な側面から見る不確実性についての話題提供を頂きました。そこでは、自然リスクと社会経済リスク要因が複雑に絡み合う現代社会では「いつ」、「どこで」、「どのように」リスクが実際の災害として顕在化するかを含めて多様な側面からの不確実性を帯びる傾向があると説明されました。この不確実性の影響をできる限り小さくするためには、レジリエンスの考え方が鍵になり、その中でも異なる関係者・組織がどう協働できるかが重要であるとご指摘されました。さらに、アンケート結果に関する考察を通して、どうレジリエンスに結びつけるかを提起されました。特に、対話の場づくりや非線形型のラーニングプロセス(多様な視点、スケールから繰り返し検証し学習すること)をどう創っていくかが重要であると考察されました。最後に、様々なステークホルダーと異なるシナリオを描きながら学習を積み重ねる「複眼型学習アプローチ」を通じた協働知の創出によって、不確実性という切り口から従来の対応を見直し、いざというときの対応のどこに抜け穴または隙間を見出すことが、不確実性に向き合う上で不可欠であることが提起され、プレゼンテーションが締め括られました。
続いて、メインコメンテーターである岡田先生よりアンケート結果に関してのコメントを頂きました。まず、世界的なコロナウィルスの伝染がもたらす不可逆的な変化により、個人(自分でできることは何か?)と他者との関係性の再認識や再発見に繋がったというコメントを頂きました。また、対話の場づくりをどのように作るかという点も留意すべきだということも指摘されていました。最後に、様々な立場や視点、人と人を繋ぐ上で、「その補助線」としてのレジリエンスがどう機能していくかが重要であると述べられました。
その後話題提起中に受け付けていたコメントや質問をオープンにし、それをもとに参加者や登壇者とともに自由な対話が繰り広げられました。特に関心が多く集まっていたのは、対話の場づくりの方法に関するご質問やコメントでした。レジリエンスという言葉がもつ多義性によって、多様な示唆やコメント、質問へとつながり、それによって今日のレジリエンスの重要性がより浮き彫りになったと考えられます。
最後に、寶先生、岡田先生、清水先生、学生の土田よりコメントを寄せていただき、本研究会を締めました。
第8回:「コロナ時代における森とレジリエンス」~森との関係性から見る人間社会の「変容」とは~
- 日時
- 2020年11月25日(金)16:30〜18:00
- 配信方法
- ZOOM
- スピーカー
- 湯本貴和氏(京都大学霊長類学研究所所長/教授)
- 内容
- 湯本先生をお招きして、総合生存学館教員および全学からの学生を交えて本テーマを中心とした対話を行い、持続可能な社会のあり方を捉え直す場としたいと思います。
ショートブリーフ
第8回レジリエント社会創造研究会
「コロナ時代における森とレジリエンス」~森との関係性から見る人間社会の「変容」とは~
ZOOM於/2020年11月25日開催
湯本貴和氏(京都大学霊長類学研究所所長/教授)
記録:土田亮(京都大学大学院総合生存学館博士課程)
本研究会では、湯本先生より新型コロナウイルスの影響に左右されている私達がこれからどのように向かっていくべきかという大きなテーマを掲げながら、人間・社会・自然の関連性を行き来しながら持続可能性とその社会のあり方を議論しました。
まず、イントロダクションでは清水先生より研究会の趣旨と今回のテーマを掲げた背景として、2020年9月に行われた屋久島SDGsオンラインスクールの概要と受講者の所感を議論の俎上にあげつつ、今後持続可能な社会を築く上で必要な鍵について話題提供をいただきました。
次に、湯本先生より「Asian Tropical Forests and SDGs(アジアの熱帯雨林とSDGs)」と題してご発表いただきました。そこで強調していたのは、自然を中心とした社会づくり、いわゆるエコシステムや生態系サービスの重要性は今日謳われているものの、そこには不可避的なトレードオフの関係があり、時としてそれぞれの価値観が対峙した結果、自然に大きな変化をもたらし得る、ということでした。例えば、元々多様な種が生活していた森林において大規模なプランテーションが介入したことによって多様で固有の種はそこから離れた森林ができてしまったという、「Empty Forest」が紹介されました。また、SDGsも各ゴールや個別ターゲットを精査すると、例えば環境保全と経済成長といったトレードオフの関係があったり、企業やビジネスの一環でSDGsの1つに取り組んでいると言いつつ、実は他のSDGsに関わる問題をつくってしまっているといった「SDGsウォッシュ」の話が出てきました。最後に、こうした事情を鑑みながら果たして自然と社会・人間との共存は可能なのか?という問いかけで、プレゼンテーションを締め括りました。
続いて、対話の時間に移り、寶先生、清水先生、土田より湯本先生に質問やコメントをしました。清水先生からは生物多様性を身近に感じる取り組みとして何が挙げられるか、コロナ時代を生物多様性の観点からどう見据えているのか、土田からは資本主義や代替可能社会から見たときに新型コロナウイルスによって自然は何かに代替されたのか、という質問を伺いました。また、話題提起中に受け付けていたコメントや質問をオープンにし,それをもとに参加者や登壇者とともに自由な議論が繰り広げられました。
最後に寶先生より、湯本先生が発表の中で紹介していたEmpty Forestに通ずるコンセプトが今日京都市や大学にも見られる、言い換えれば、「Empty City」や「Empty Campus」として言えるのではないかと示唆しました。人が集まることを前提として発展した都市やキャンパスのあり方を今一度見直し、経済発展や感染予防、学習や交流機会の提供などを新たに実現するべきかを再考し、本研究会を締めました。
第7回:「コロナ時代のレジリエンスとは」~対話~
- 日時
- 2020年6月12日(金)16:00〜17:30
- 配信方法
- ZOOM
- スピーカー
- 藤田裕之氏(レジリエント・シティ京都市統括監)
- 内容
- 今のコロナの逆境の中にある私達は、これからどういう方向に向かっていくのかー、この大きなテーマに対して、「レジリエンス」の視点から、対話を奏でていきます。藤田 裕之 氏(レジリエント・シティ京都市統括監)をお招きして、京都大学総合生存学館教員・学生と共に、語り合います。特に今回は、幅広い層の「学生」の方へのメッセージを伝えていくことを目指します。
ショートブリーフ
第7回レジリエント社会創造研究会
「コロナ時代のレジリエンスとは」~対話~
ZOOM於/2020年6月12日開催
スピーカー:藤田裕之(レジリエント・シティ京都市統括監)
記録:土田亮(京都大学大学院総合生存学館博士課程)
本研究会では、藤田裕之氏より今のコロナの逆境の中にある私達がこれからどういう方向に向かっていくのかという大きなテーマを掲げながら「レジリエンス」の視点から議論しました。まず、イントロダクションでは清水先生と岡田先生より今回のテーマを掲げた背景とレジリエンスの定義、またコロナ時代における協働知創造のあり方について話題提供をいただきました。
そこでは新型コロナウイルスのような目に見えないリスク、いわゆる不確実性を伴うからこそ、様々な学問知や実践知、現場知を編み直し、再構築する上であらゆる垣根を越えて対話を行う必要があると先生より提起がなされました。次に、藤田氏より都市のレジリエンス構築とSDGsの推進を見据えたコロナ時代のレジリエンスについて発表がありました。具体的に言えば、新しい行動様式やニューノーマルといった概念がはたして本当にレジリエントなのか、あるいはSDGsの文脈に即しているのかという問いかけから始まり、その答えのヒントとして、「今や自分さえよければ」という行動様式の克服や自然災害だけに留まらない感染症災害などのあらゆる危機を想定した当事者意識の醸成こそが、レジリエンスの構築やSDGs達成へ一歩前へ進められる鍵になるのではないかと強調されました。
続いて、学生からの発表により、3名の学生から社会・自然・人間の視点に立ってレジリエンスの再考を打ち出しました。社会の視点に立ってLee Hyorimさんからは、「レジリエントな社会を想像するために4つのS、すなわち、Foresight=先を見通す、Insight=気づく、Oversight=全体を見渡す、Hindsight=振り返るが必要になるということ」、自然の視点から土田亮(私)からは、「時代・状況に適応する思考フレームと社会・人間の適応がこれからの新しい時代で求められるということ」、人間の視点に立って渡辺彩加さんからは、「人間のレジリエンスを取り戻すために、例えば宗教など既存のネットワークを起点にして精神の拠り所を創出することが重要であること」が、提言されました。
また、寶先生より日本や世界の感染症災害の歴史を跡付けしながら、感染症勃興の前の社会とは異なる様相や行動様式が求められるとともに、レジリエンスによって回復した後の社会がいわゆるニューノーマルの世界として位置付けられるのではないかと発案がありました。
その後、対話の時間を設け、話題提起中に受け付けていたコメントや質問をオープンにし、それをもとに参加者や登壇者とともに自由な議論が繰り広げられました。今回、昨今の様々な状況を考慮した上で初めてZOOMオンラインプラットフォームを使ったワークショップおよび対話を行う運びとなりましたが、同じ場の空気感を共有せずとも、レジリエンスや今の新型コロナウイルスの影響とその逆境を時間や空間を超えて語り合い、互いに気づくという非常に活気に溢れた会になりました。
第6回:弱者と災害の現場〜レジリエンスの視点から見る教訓〜
- 日時
- 2019年11月14日(木)17:00〜18:30
- 配信方法
- 京都大学東一条館2F講議室
- スピーカー
- 湯井恵美子氏(防災士・兵庫県立大学大学院減災復興政策研究科博士後期課程)
- 内容
- 災害の影響は、高齢者・障害者・子供など弱者に最も大きく及びます。そこに日頃から意識をどのように向けるかによって、現代リスク社会の姿は変わるといっても過言ではありません。現場に常に立っておられる湯井さんのお話を踏まえ、「弱者と災害」の現状はどうか、レジリエンスの視点からみてどのような教訓が引き出せるか、さらにどのような今後のアクションに繋げられるかを、参加者全員で検討したいと思います。
ショートブリーフ
第6回レジリエント社会創造研究会
「弱者と災害の現場」〜レジリエンスの視点から見る教訓〜
京都大学東一条館1F大会議室於/2019年7月25日開催
スピーカー:湯井恵美子(防災士・兵庫県立大学大学院減災復興政策研究科博士後期課程)
記録:土田亮(京都大学大学院総合生存学館博士課程)
2019年11月14日(木)に「弱者と災害の現場〜レジリエンスの視点から見る教訓〜」というテーマで、防災士として現地の防災力向上に貢献しながら、兵庫県立大学減災復興政策研究科 博士後期課程として研究している湯井恵美子氏よりご講演いただきました。今回のご講演で、湯井氏は様々な災害現場のご経験から見えてきた、多様な被災者や支援者の想いやその人が訥々と語ったことを丁寧に紡いでいました。
さて、今回の研究会の主なハイライトは以下の2つです。
第1に、災害現場における弱者とは誰か? という問いかけです。この問いに対して、湯井氏は「障がい者とその支援者、高齢者、在宅避難者」が脆弱な立場に追いやられているのではないか、と答えました。それは2016年の熊本地震や2018年の大阪北部地震、令和元年台風19号のケースで散見されたと言います。例えば、避難時に親が障がいを抱える子とともに逃げられるかどうか、避難した場所で子を守れるかどうか、傷つく我が子をどのようにして支えられるかが親にとっては決断や負担が大きいのかもしれません。また、そもそもそうした困難を抱える人たちのためにある福祉避難所を知っているかどうかが怪しいことが挙げられました。あるいは、指定避難所で支給される弁当に野菜が少なかったり、塩分濃度が高かったり炭水化物が多かったりして高齢者や持病を抱える人たちの健康を配慮する必要があるのではないか、と湯井氏は考えを巡らせました。
第2に、レジリエンスは健常者の立場から提案するのではなく、弱者の視点から見ることこそが大事なのではないか、という提案です。災害のような非常時ではどうしても弱者への配慮が薄くなってしまう。そこで社会包摂性も視野に入れるレジリエンスの概念が必要になってきますが、レジリエンスは初めから強いものを作るのではなく、しなやかなものを作るのであり、最初から弱くたっていいとお話がありました。臆病に慎重に対策を打ち立て、弱者が生き残れる方策を立てれば、弱者も私たちも生き残れるのではないか、という視点の提案が湯井氏からありました。
防災減災を進めるためには1つの災害や地域、学問だけから見るだけでなく、様々な自然現象や地域の枠を超えて、また学際的に取り組まなければ将来の災害の被害やリスクを減らすことはできません。ただ、福祉の観点から見た防災減災のあり方は日本ではまだ議論が活発でない、また、そもそも議論の俎上に上がっていないのが現状だと思います。弱者の声が抑圧されている、あるいは、きちんと取り上げられていないのかもしれません。上に見た湯井氏の問いかけや提案に対して、フロアからの盛んな質疑がありました。弱者の声を大切にしながら、いかにして社会に包摂的でレジリエントな社会を創造するか。行政や支援者、当事者とともにこれからも議論と実践、そしてフィードバックをする必要があると考えました。
第5回:教育におけるレジリエンス
- 日時
- 2019年7月25日(木)17:30~19:30
- 場所
- 京都大学東一条館1F大会議室
- スピーカー
- 藤田裕之(レジリエント・シティ京都市統括監)
- 内容
- 様々な社会や人間が直面する問題の根っことも位置づけられる教育、そしてレジリエンス。この2つの関係性を俯瞰的にみながら、広い意味での(学校教育にとどまらず、人材育成も含めて)これからの教育に必要な側面、アプローチについてお話いただきます。
ショートブリーフ
第5回レジリエント社会創造研究会
「教育におけるレジリエンス」
京都大学東一条館1F大会議室於/2019年7月25日開催
スピーカー:藤田裕之(レジリエント・シティ京都市統括監)
記録:鍵本源(レジリエンスイニシアティブ・インターン/京都大学法学部3回生)
第5回レジリエント社会創造研究会には、レジリエント・シティ京都市統括監の藤田裕之氏にお越しいただき、「教育におけるレジリエンス」についてご講演をいただきました。藤田氏は長年京都市にお勤めになられ、副市長を経て、現在、京都市のレジリエンスを推進するCRO(Chief Resilience Officer)を務めておられます。今回の研究会には、小学校の校長、高校教員、京都市職員、企業関係者、大学院生、大学教員など、多様な方々に参加していただきました。
現代社会では、如何にして未知のリスクに対応するかが大きな問題の一つです。その未知のリスクにはこれまで人類が経験したことがない生活・社会環境への適応が含まれます。特に日本においては、人口減少が将来において確実となり、経済も大きな成長を見込めず、これまでに経験したことがない状況に挑戦し、新しい価値やシステムを創造していく必要があります。それゆえ、新しい社会の担い手を育成することは大きな課題であります。しかし、都市化や核家族化に代表される生活環境の変化、子育て世代の孤立感とそれによる子供への過保護、物質的な豊かさを追求する消費主義、情報化社会の進行とスマートフォンの普及は、人を育てることに大きな困難をもたらします。
中学生の不登校(隠れ不登校も含めて)が44万人もいる(NHKスペシャル/シリーズ:子どもの声なき声「『不登校』44万人の衝撃」より)という事実は、これまでの教育だけでは現状に対応することが難しくなっていることを裏付けます。そこで「レジリエンス」を目標に置き、レジリエンスを持った人間の育成、またそのような人間を育てる環境の構築が必要となるのではないかと、この研究会の講演の内容を踏まえて私は考えました。レジリエンスは「折れても立ち直る心」「挑戦する意欲」「協調・協力できる態度」などで具体的に表すことができます。その核には、「自己有用感」「自尊感情」「楽観思考」があります。それを育てるには、自分が大切にされている実感や実体験が必要です。また、レジリエンスはSDGs(持続可能な開発目標)に対して方法や手段を提示します。実行において両者は相補的な関係に立ちます。
その後の議論も、参加者の方々の積極的な発言により、実りの多いものとなりました。その話し合いの中で、スマホが小学校高学年の生徒に及ぼす影響が話題の1つにのぼりました。スマホによって生徒は自分の世界だけに閉じこもりがちになり、他者とのトラブルも頻繁に起きています。そこで一端スマホを手放して誰かと共に協力し合う楽しさを体感することが重要です。それには生徒だけでなく、保護者の方の協力も必要とします。
また、「心が折れてはいけない」という考え方についても話題になりました。参加者から、当事者になるとこの考え方はプレッシャーになり得ること、そこでむしろ折れてもいいんだと、考え方を転換し、挑戦し続けることが重要だという発言がありました。そして挑戦といっても、一概に標準化できるものではなく、その挑戦の仕方はみなそれぞれ違っていていいんだという周囲の柔軟な理解が必要であること、他人と較べないことの大切さが指摘されました。さらに自然と関わることにより、ストレス耐性をつけることも一つの手段として有効であるという発言もありました。
こうした話し合いを踏まえて、私は、学校の勉強以外にも、学ぶべきことはたくさんあること、一見役に立たないことがとても大切であることを実感しました。数値化された競争の中で勉強を強制することから脱却し、勉強が嫌いにならないよう、努力が嫌いにならないようにすることが重要と言えます。
多様なバックグラウンドを持った参加者の方から、実感を持って伝えられた言葉によって、認識が広がりました。一人だけでは拾えない情報、持てない考えを知ることができました。今回の研究会を通して「協働知」を働かせることができたのではないかと考えます。
第4回:関係性を紐解く
- 日時
- 2019年3月14日(木)14:00〜15:30
- 場所
- 京都大学吉田泉殿(※本学吉田キャンパス正門より徒歩10分程度)
- スピーカー
- 建仁寺塔頭 両足院 副住職 伊藤東凌(いとうとうりょう)
- 内容
- 人間・社会・自然とレジリエンスの関係性を含め、多様な「関係性」を重視する本研究会において、洞察に富む哲学的視点から、私たちは「関係性」をどのように捉え、育んでいくのか、などについてお話いただきます。目にみえる情報や知識に偏りがちな私たちですが、こうした関係性を捉える感性を磨き、レジリエント社会創造に不可欠な「気づき」を得る「場」を設けます。
第3回:グリーンインフラとレジリエンス
- 日時
- 2019年2月15日(金)14:00〜15:30
- 場所
- 京都大学東一条館1F大会議室
- スピーカー
- 清野聡子(九州大学准教授)
- 清水美香(京都大学学際融合教育研究推進センター特定准教授)
- 内容
- 日本における生態系を活かした減災(ECO-DRR)、または自然や生態系を積極的に活かした社会基盤としてのグリーンインフラの現状、可能性、課題を包括的にお話いただき、それを踏まえてグリーンインフラがどのように「レジリエンス」に関わっているかを、対話を通して検討します。
ショートブリーフ
第3回レジリエント社会創造研究会
「グリーンインフラとレジリエンス」
京都大学東一条館1F大会議室於/2019年2月15日開催
スピーカー:清野聡子(九州大学准教授)/清水美香(京都大学特定准教授)
記録:木村直子(京都大学大学院地球環境学舎博士後期課程)
本研究会ではまず清野氏より、長年沿岸・流域環境保全学、生態工学の視点から、地域住民や市民の沿岸管理への参加、および水関係の環境計画や法制度に注目してこられたご経験を踏まえ、自然や生態系を積極的に活かした社会基盤としてのグリーンインフラの現状、可能性、課題を包括的にお話いただきました。
特に現状と課題について、3.11東日本大震災後の防潮堤建設の実施状況を踏まえたお話がありました。総じて、現状の課題を十分に直視しないまま次の計画に望みを託す流れにあること、また「強靭化」という言葉が様々な文脈の中で曲解される傾向がみられたことなどの指摘がありました。さらに、法律の壁や分野ごとの対応が、狭い領域の視点からの部分的な対応につながっており、生態系・景観・安全性などを俯瞰的にみて、さらに短中長期的な視点から全体を見渡した上での、施策および実施に至っていないことが指摘されました。
そうしたお話しを踏まえて、こうした課題がどのように「レジリエンス」に関わっているか、また現状の課題をレジリエンスの視点からどのような問題解決方向に向けるかについて、レジリエンス研究に携わる清水氏と対話が行われました。特に、様々な関連の対応が「部分」に終始しがちであることは、「レジリエンスアプローチ」(清水、2015)の重要な要素が施策またはプロセス上欠如していることを示しているという指摘がありました、特に清水氏のいう「木を見て森も見る」(部分と全体の両方を見る)ことが、現場でも、学問間でも、政策システム上においても極めて重要であるこが、お二人のお話しの中で強調されました。
参加者との議論の場では、早い回復が実現できることもレジリエンスの1つの要素であることを考えれば、グリーンインフラや引堤のように敷設に十年もかかるような対策は、住民にとって「良い」ものであるといえるのか、という質問も出されました。これに対し、清水氏は「レジリエンスは一つの要素だけで見るのではなく複眼的な視点からみることが大切であり、二者択一ではなく、変化の状況を観測・観察しながら、どう自然が変化するかを学び、その学びを蓄積していくことが重要である」とした見解を示しました。
第2回:災害とレジリエンス
- 日時
- 2018年12月3日(月)14:45~16:15
- 場所
- 京都大学東一条館1F大会議室
- スピーカー
- 岡田憲夫(京都大学名誉教授)
- 内容
- 研究会の目的に沿って、自然・人・社会システムのつながりを重視し、多角的な側面から災害とレジリエンスの関係性に焦点をあて、如何にその知見を行動に結びつけるかについて検討します。
ショートブリーフ
第2回レジリエント社会創造研究会
「災害とレジリエンス」
京都大学東一条館1F大会議室於/2018年12月3日開催
スピーカー:岡田憲夫(京都大学名誉教授)
記録:清水美香(京都大学特定准教授)
2018年12月3日、第2回レジリエント社会創造研究会で「災害とレジリエンス」をテーマに岡田憲夫(京都大学名誉教授)氏にお話しいただきました。全体的に岡田氏のお話しは、洞察力と創造性と想像性に溢れていて人間の根源にも遡るようなお話しでした。以下では、特に今後の日本における災害と持続可能な社会を考える上で特筆すべき点として2つに集約してお伝えします。
鳥取県智頭町の事例とSMART
2018年7月、西日本広域を豪雨災害が襲いました。ここで顕著みられたのは、被災地域の避難率の低さです。そうした中で、岡田氏は「鳥取県智頭町では巧みに住民が自主避難した。命を亡くす人は一人もいなかった」とした上で、その要因として下記を挙げられました。
- 集落地区での「避難のルール」をある程度決めていた
- 率先避難をするリーダーとコアメンバーがいた
- 「SMART」なまちづくり(※1)
- 日本・ゼロ分のイチ村おこし運動(※2)
※1:岡田氏による提唱(1)Small and Solid(小さいことから、無駄を省いて研ぎ澄ましながら) 、(2)Modest and Mutual(つつましく、力を合わせて) (3) Anticipatory and Adaptive(先のことを考えて、手直しを重ね)(4)Rule-based, Responsive(リスクを事前に考えて、外のことに敏感になる)、 (5)Transformative(手直し、立て直しをする)の要素を備えたまちづくり)の実践
※2:岡田氏による提唱(1)過疎問題、(2)環境・気候変動問題、(3)自然災害、(4)グローバル化を生き残る地域力づくりの、(1)〜(4)をバラバラではなく、相互に相関させて取り組むことに関連)という取り組みを30年以上、実施し、地域力向上と小さな変革の積み上げを実践
上記のSMARTやゼロ分のイチ村おこし運動の枠組みと要素は、特に災害や自然・社会環境変化に晒されている日本におけるレジリエントな社会創りの根幹にも関わるのではないでしょうか。
「空振り」はない
災害が起きる直前に警報が出た際、避難元に物理的被害がそれほどなかったとき、「空振り」という表現が使用されることがありますが、岡田氏は「重大な警報には空振りはあり得ない」とし、野球に例えながら次のように表現されます。
ポイントは「結果的に物理的被害があったかなかったではなく、野球の連携プレーができたかどうか」であって、最悪のシナリオにあっても「警報を出す側と、警報という玉をきっちり打ち返せる打者(住民リーダー)がいて、それに呼応して塁にいる(住んでいる)住民が一斉に避難ができるかどうかが、最大の問題である」と。
いざという時にこの連携プレーができるかどうかは、普段の住民と行政とリーダーがどのように信頼関係を築き、準備ができているかにかかっています。つまり、いざというときにレジリエントに行動できるかどうかは、日常的にレジリエンスを育み、創り上げていくかによるとも言えるでしょう。
近年日本は洪水から地震まで多くの災害を経験し続けています。どの災害が起きるか、またその規模にかかわらず、ここでお話ししていただいたポイントは、これからも来るすべての災害に向き合う上での根っこになるものと思われます。
第1回:SDGsとレジリエンス(ブレインストーミング)
- 日時
- 2018年11月1日(木)16:30〜18:00
- 場所
- 京都大学東一条館2F講義室
- スピーカー
- 池田裕一(京都大学総合生存学館教授)
- 清水美香(京都大学学際融合教育研究推進センター特定准教授)
- 内容
- 大テーマに対し、SDGs実施のためのより分析的な視点を引き出していくためのブレインストーミングとして位置づけています。