清水美香(京都大学)
1.概要
2018年度総長裁量経費採択事業「地域(京都)を志向した教育・研究・社会貢献」から支援を受けて、京都大学特別公開講座「京都コモンズの創造:森とレジリエンス~持続可能性に繋ぐ~」を京都大学森里海連環学教育研究ユニットおよび京都大学総合生存学館レジリエント社会創造研究会主催で2018年10月11日および28日に開催しました。
この特別公開講座は、「京都レジリエント・シティ」(京都市は2017年、米国に拠点を置くロックフェラー財団によってResilient Cities100の1つに選ばれた)を、人材育成の側面から支援し、京都の地域コミュニティが協働で地域レジリエンス(resilience)(広義の意味合いとして「大きな変化や逆境にあっても折れない環境を創ること」を起点としています)創りを行う契機をつくることを目的に、企画されました。これは、「レジリエント・シティ」実現のためにはそれを成す一人一人、または地域コミュニティがレジリエンスを備えていることが欠かせないという理解に基づくものです。特にこの公開講座を進めるにあたって、下記を目標に据えました。
プロジェクト基本目標
私たちの生活にもっとも身近な自然である森を通じて、参加者が人と自然と社会の関係性を捉え直し、そこから、自分自身のレジリエンスについて考え、さらに地域レジリエンスの向上に関わるきっかけをつくる。
共有資源を守り育てること、または共有課題に協働で関わることを「コモンズ」と位置づけ、「京都コモンズ」の視点を通して、森を捉えなおし、そこから自然と人、人と自然と社会の関係性を、頭と心の両方を通して、知り、考え・感じ、そこから地域レジリエンスに関わる課題解決に活かす道筋をつくる。
この目的、目標を果たすために本講座は、1)対話形式をベースにした講義と2)フィールド実習および協働ワークショップの2回で構成しました。この一連のプロジェクトの特徴として、参加学生が①講義を受身で受けるだけではなく、そこから触発されて学際的対話の一部となること、②森に触れ知ることによって、人と自然の関係性、さらに社会との関係性に意識を向け、レジリエンスのあり方を考えること、③上記①および②の相乗効果の結果として、「京都コモンズ」を総体的に捉え、それに関わる様々な課題に対するアプローチ方法を、他の参加者との協働を通して自ら引き出すこと、に重点を置いたことが挙げられます。
第1回目の「『森とレジリエンス』を知る、考える」では、京都市「レジリエント・シティ」のチーフレジリエンスオフィサー(CRO)藤田裕之氏、株式会社堀場製作所理事・野崎治子氏を招聘し、京都大学からは寶馨教授、徳地直子教授、筆者が講師を務め、京都の「コモンズ」とは何か、「レジリエンス」とどのような関係にあるか、どのようにレジリエンスを育むかについて対話を交えた講義形式で進めました。さらに、「レジリエンス思考」の一角を成す「システム思考」を紹介することによって、地域課題の中でレジリエンスを創るためのアプローチ法方法を解説し、それを第2回目の活動のための基礎を提供しました。
その第1回目を踏まえて、第2回目の「第2回『森とレジリエンス』を感じる、課題解決に活かす」では、京都大学芦生研究林まで足を運び、森の中のフィールドワークと協働ワークショップを実施しました。参加者はそこで「森とレジリエンス」を体感し、そこで得た「気づき」をもって、協働ワークショップを行い、グループに分かれて「京都コモンズ」に関わる課題とそれを問題解決方向に導くための提案を協働でつくりだす作業を実施しました。その作業の軸として、第1回目に提示したシステム思考、レジリエンス思考を参照するよう促しました。
こうした作業を通して参加者が獲得した「気づき」として主に、「本質的な意見を捉えまとめていくことの難しさ、「人の関心(のなさ)」が問題解決の根源であること」、「自然・人・社会の関係への理解が足りてなかった、その理解を促す場がこれからもっと必要であること」、「多角的な面からみる視点、その一つ一つを繋ぎ合わせていくプロセス」などが挙げられました。
2.成果
総じて、学生、社会人、一般を含め延べ100人の参加者が第1回または両方の回に参加され、対話や提案に積極的に関わりました。第一回、第二回ともに参加した参加者全員対象のアンケート(約30名)から総じてみられる傾向として、1)自分自身の中に、これまでには気づかなかった、あるいは見過ごしていた気づきが生まれたこと、2)小さくても、多面的、多視的に物事を見ることへの気づきにつながったこと、3)物事や問題の1点を見るのではなく、異なるものをつなげてみる動きがでたこと、などを挙げることができます。これは、持続可能な社会に関わる問題解決方向に不可欠な、物事を点だけはなく、多方向から総体的に見る目を養うことに繋がっていることを示しており、「レジリエンス」の視点を提供すること、特にレジリンスを森に繋げることの効果が表れているとみることができます。
3.課題
持続可能な地域や社会に取り組んでいる上で、こうした試みの意義が広く関係者に認識され、コモンズやレジリエンスを根底に置く協働知創出方式を組み入れた教育プログラムが、学校や大学さらには人材育成プログラムを含めて多様な場で試行・適用されることが期待されます。そうしたことが、自然・社会環境変化に直面している私たちにとって必要不可欠な環境力創りにつながるからです。その意味で、こうしたプロジェクトが単発に終始せず、より中長期的な視点からの取り組みにどのように繋げるかが、目下の課題と言えそうです。